2017年で勉強になった書籍
2017年に、私の価値観に大きくインパクトを与えた書籍を記録しておきます。本選びの参考にしていただければ幸いです。(私が手にとって読んだのが2017年というだけで、必ずしも出版年が2017年というわけではありません。念のため。)
また、ビジネス書ランキングとうたっていますが、半分はビジネスにほとんど関係ない小説やマンガです。「ビジネス書ではないが、これは教養としてビジネスの世界でも生きるだろう」と思ったものを挙げています。
これは紹介したい、と思ったのが7冊のみだったので、1~7位までのランキングです。まずは7位からどうぞ。
第7位:『ロボット刑事』(著:石ノ森章太郎)
『仮面ライダー』や『キカイダー』などで知られる石ノ森章太郎の傑作漫画。最新技術の粋を集めてつくられたアンドロイド刑事をめぐる、悲しい人間ドラマが繰り広げられます。1973年の作品ですから、過去の未来像、いわゆる「レトロフーチャーもの」に分類されるものですが、いまみても全く色褪せず、むしろ現実味が増しているように感じます。石ノ森章太郎の非凡な才能がうかがえる作品です。
AIやロボットの技術が進むと世の中はどのようになり、どのような心の動きが起きるのか。近い将来に来たる世界を先読みして考えることができるでしょう。
なぜ本年にこの作品を手にとったかというと、本年に公開された映画『ブレードランナー2049 』の主人公であるアンドロイドの刑事「K」が、このロボット刑事Kにも影響されているとの噂があったため。
創造主との邂逅、道具として生まれた境遇の悲しみ、叶わぬ恋など、全く無関係とは思えないほど似通っています。(公式には、「K」の由来はブレードランナーの原作である『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』の作者フィリップ・K・ディックからとられているそうです。監督のドゥニ・ヴィルヌーヴがこの作品を読んでいるかどうかは謎。)
ちなみにロボット刑事Kは、私も大好きな「ストリートファイターⅢ 3rd Strike」というゲームのキャラクター「Q」のモデルでもあります。久しぶりに使ってみたい。
また石ノ森章太郎の表現力、映像的構成力の凄まじさは、下記、トキワ荘で青春を過ごした作家によるオムニバス『まんが トキワ荘物語』でわかります。そうそうたるメンツのなかでトリを飾る石ノ森章太郎の作品は圧倒的に心を揺さぶります。
第6位:『漫画 君たちはどう生きるか』(著:吉野源三郎)
言わずと知れた、児童向け教養小説の金字塔の漫画バージョン。2017年の刊行です。
人間は社会のなかの1分子にすぎないこと。「誰がなんと言おうと許さん!」という力強さを持つことが、正しいことをする時には求められること。
秋口の雨後の晴天のように心が晴れる珠玉の一冊に仕上がっていると思います。 渋沢 栄一が事業は「論語と算盤」といいましたが、その論語の部分を補完しうる素晴らしい本です。
第5位:『AIの遺電子1-8』(著:山田胡瓜)
ひとことで言うと「AI専門医版ブラックジャック」。『攻殻機動隊』の世界観を引き継ぎながら、かなり現実味のある近未来を提示しています。そう遠からずこのような世界になるのでは、という説得力に満ちています。
そしてその近未来で起きうる人間ドラマと、社会問題、そしてビジネスについて考えることができるので、未来をもとに事業戦略を立てるさいなどに活用できるのではないでしょうか。
第4位:『幸せとお金の経済学』(著:ロバート・H・フランク)
お金をもっていても幸せになっていない人は多い。幸せになるための効果的なお金の使い方、稼ぎ方を知るための本です。
世の中には
- 地位財
- 非地位財
の二種類がある。地位財は機能的な価値ではなく、社会的なアイコンとして働くもの。「いつかはクラウン」「ウイスキーはトリスから角、オールド、リザーブ、ローヤル」といった具合に所持者の地位を表すものが地位財。
この地位財に価値を見出す消費行動をしていると、所得格差が広がって上位層が更に格の高い地位財を手に入れたとき、中流層以下の人々が自らを貧しいと捉え、幸せになれない。ようは継続性がないのです。
そうした財産ではなく、個人の幸せにとって継続性がある財産を増やしていくことが重要と説く本です。給与が伸び悩み未来が見えない私達の世代にぜひ読んでほしい一冊です。
第3位:『お金2.0 新しい経済のルールと生き方』(著:佐藤航陽)
経済を再定義する一冊。著者は、価値を数値化したものが貨幣であり、その貨幣の最大化につとめたのが資本主義経済であるとすれば、貨幣を媒介しない価値がそのまま評価される「評価主義経済」へと遷移していると説きます。
この書籍の肝になる部分はあえて申し上げませんが、機会学習やインフルエンサー・マーケティング、仮想通貨に関して興味がある方は必読だと思います。
そしてこの本の主張でもっとも特筆すべきことは、すべてのものは自然に似ている。あるいは、自然の延長線上にすべてがある、という捉え方がインプットされることでしょう。すべてのものはネットワーク化していき、循環があり、拡大複雑化していく。その流れが停滞するとそのエコシステムは死を迎える。あらたな視点が身につきます。
第2位:『古事記物語』(著:稗田阿礼、鈴木三重吉)
これもビジネス書ではありませんが、視界がいっきに開けるカタルシスを覚えた一冊。国産み神話や、最初のヒトであるイザナギイザナミの伝説、アマテラス神話、因幡の白兎伝説、オオクニヌシの国譲り神話など、「どこかで聞いたことがある」話のオンパレード。
最近では、スサノオがヤマタノオロチを退治した八塩折の酒の逸話が「シン・ゴジラ」で「ヤシオリ作戦」として引用されたのが記憶に新しいですね。
古事記を知れば、日本の様々な神社が祭る神様の来歴を知ることにつながり、日本中どこの神社にいっても楽しむことができます。たとえばオオクニヌシを祀る神社であれば、「国譲りをした神様を祀っているということは、このあたりは高天ヶ原系の民族に淘汰された出雲系の民族が昔住んでいたかなあ」といった想像もできますし、逆にニニギノミコトを祀る神社であれば、「高天ヶ原系の民族が出雲系の民族を征服したのちに自己を正当化するために建立したのだとすれば、このあたりにはそうした争いの歴史があったのかなあ」といった妄想もできます。
あるいは、イワナガヒメを祀る神社であれば不老長寿の願いが込められた神社かもしれないし、アメノタヂカラヲを祀る神社であれば健康の願いが込められた神社かもしれません。
これ一冊読むだけで日本中のどこにいっても旅行が楽しめるようになります。日本のエンターテイメントと地域文化を知るには避けて通れない一冊といえるでしょう。
また古事記物語を読み終えたら、副読本として河合隼雄の『中空構造日本の深層』をおすすめします。極上のミステリ小説を読むワクワク感をあじわえるでしょう。
第1位:『サピエンス全史』(著:ユヴァル・ノア・ハラリ)
ホモ・サピエンスの歴史を巨視的に観ることができる傑作。読んでてアドレナリンがドバドバでるタイプの面白さ。ヒトが小麦を栽培化したのではない。小麦がヒトを家畜化したのだ。といった具合にパワーワードが満載です。
唯一の欠点は、世界のモヤモヤを相対化、言語化しすぎるために、世の中に冷めた見方をしてしまいそうになることです。
小林秀雄が『美を求める心』にて「言葉は眼の邪魔になるもの」と看破していますが、まさに眼の邪魔になる一冊かも知れません。
例えば、諸君が野原を歩いていて一輪の美しい花の咲いているのを見たとする。見ると、それは菫の花だと解る。何だ、菫の花か、と思った瞬間に、諸君はもう花の形も色も見るのを止めるでしょう。諸君は心の中でお喋りをしたのです。菫の花という言葉が、諸君の心のうちに這入って来れば、諸君は、もう眼を閉じるのです。それほど、黙って物を見るという事は難しいことです。菫の花だと解るという事は、花の姿や色の美しい感じを言葉で置き換えてしまうことです。言葉の邪魔の這入らぬ花の美しい感じを、そのまま、持ち続け、花を黙って見続けていれば、花は諸君に、かって見た事もなかった様な美しさ、それこそ限りなく明かすでしょう。
このように、『サピエンス全史』はあまりに巨視的に言語化してしまうために、世の中の微視的な美しさを損なってしまうリスクすらあります。知的好奇心と純真な眼の取引ともいえるでしょう。その勇気がある方は是非ご覧ください。
サピエンス全史(上) 文明の構造と人類の幸福 サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福
おわりに
以上、本選びの参考になりましたら幸いです。